STCW基本訓練とは?受けないとどうなる?
ABOUT STCW
- STCW基本訓練とは?
- STCW基本訓練の受講義務がある船員は?
- STCW基本訓練を受けないとどうなる?
- STCW基本訓練の内容は?
- STCW基本訓練の費用は?
- STCW基本訓練の期限は?
- STCW条約の資格は?
- STCW基本訓練はいつから?
- STCW条約の正式名称は?

2010年に改定された「STCW条約」で、20トン以上の船舶*に乗る船員の方は、生存・消火など、船員として必要な訓練を受けることが定められました。
このページでは、STCW基本訓練の内容や期限・費用など、STCW基本訓練に関してわかりやすく解説しています!
*国際航海に従事しない総トン数20トン以上の船舶
STCW基本訓練とは?

STCW(International Convention on Standards of Training, Certification and Watchkeeping for Seafarers)基本訓練は、国際海事機関(IMO)によって策定された規格です。
海上で働く船員に対して必要な最低限の訓練を定めています。
STCW基本訓練は、船員の安全と船舶の安全を確保するための重要な基礎訓練です。
これは、船員が船舶で業務を行う際に必要な基本的な知識、技能、態度を身につけるための訓練です。
STCW基本訓練の内容は、以下の4つの要素から構成されています。
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1個々の生存技術(生存訓練)(Personal Survival Techniques)
船員が海難事故や遭難時に生き残るための訓練です。救命ボートや救命いかだの使用、遭難時の適切な行動などが含まれます。
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2防火及び消火(消火訓練)(Fire Prevention and Firefighting)
船舶での火災予防および消火の方法に関する訓練です。火災の原因や発生源の特定、消火器の使用法、消火設備の操作などが含まれます。
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3初歩的な応急手当(応急訓練)(Elementary First Aid)
船員が基本的な応急手当を提供できるようにするための訓練です。傷や病気の応急処置、心肺蘇生法、救命浮環の使用などが含まれます。
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4個々の安全及び社会的責任(安全社会訓練)(Personal Safety and Social Responsibilities)
船員の自己保護と他の船員への配慮に関する訓練です。火災予防や救命訓練、個人の健康と安全に関する基本的な知識などが含まれます。
これらの訓練は、船員の安全性と船舶の安全性を確保するために非常に重要であることから、受講が義務付けられています。
STCW基本訓練の受講義務がある船員は?

近海区域及び沿海区域(限定沿海区域を除く)を航行する内航船(20トン以上の船舶に限る)に乗り組む船員は、STCW基本訓練を受ける必要があります。
具体的な船員の職種には、船長、航海士、機関士、甲板乗組員、機関乗組員、船医、船員の指導者などが含まれます。船舶の規模や種類に関係なく、これらの職種に従事する船員はSTCW基本訓練の受講義務を履行する必要があります。
内航船で具体的に対象となる船員
- 内外航問わず船舶に乗り込み、その運航において安全又は汚染防止任務に携わるすべての船員
- 海技免状を有する船員(船舶職員及び小型船舶操縦者法 第7条)
- 航海当直部員の資格を有する船員(船員法 第117条の2)
- 危険物等取扱責任者の資格を有する船員(船員法 第117条の3)
訓練の内容
上記の対象となる船員は、次のすべての訓練を受講しなければなりません。
- 個々の生存技術(生存訓練)
- 防火及び消火(消火訓練)
- 初歩的な応急手当(応急訓練)
- 個々の安全及び社会的責任(安全社会訓練)
※海技免状を有する船員は応急訓練及び安全社会訓練は省略可
STCW基本訓練を受けないとどうなる?
STCW基本訓練を受けない場合、船舶に乗ることはできません。STCW基本訓練は、船舶乗組員の最低限の資格要件の一部となっており、訓練を受けた船員でなければ船舶に乗務することは法的に認められていません。
2022年2月9日に行われた国土交通省の「STCW条約基本訓練(内航船向け)に関する説明会での質疑応答」で
Q:「訓練を受けずに乗船した場合違法になるのか。」
という質問に対して
A「訓練を実施していない場合には、STCW条約及び船員法第81条、船員労働安全衛生規則STCW条約及び船員法第81条、船員労働安全衛生規則 第11条の違反となります。」
と回答されている通り、STCW基本訓練を受けずに乗船すると、違法となります。
具体的な影響は以下の通りです
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1就業機会の制約
STCW基本訓練の資格を持たない船員は、船舶業界での就業機会に制約を受けます。ほとんどの船舶オペレーターや雇用主は、船員にSTCW基本訓練の取得を求めます。訓練を受けていない船員は、雇用機会が限られる可能性が高いです。
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2法的違反
STCW基本訓練の要件は、国際的な法的基準として定められています。船員が訓練を受けずに船舶に乗務する場合、法的な違反行為とみなされる可能性があります。船舶所有者や運航会社にとっても法的なリスクを伴うことになります。
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3安全性の低下
STCW基本訓練は、船員が船舶の安全性に関する基本的な知識と技能を持つことを保証するためのものです。訓練を受けていない船員の存在は、船舶の安全性を低下させる可能性があります。緊急事態や災害時に適切な対応ができないため、乗組員や船舶自体の安全に影響を及ぼす恐れがあります。
STCW基本訓練は船舶業界での就業や船舶乗務の法的要件であり、訓練を受けない場合には就業機会の制約や法的な問題が生じる可能性があります。
STCW 基本訓練の内容は?
STCW基本訓練には、以下の4つの訓練があります。
1生存訓練
STCW条約コードA-6-1-1(1〜11)に定められている訓練です。
訓練内容
- 救命胴衣の着用及び使用
- イマーションスーツの着用及び使用
- 高所から水中への安全な飛び込み
- 救命胴衣着用時における救命筏の反転復正
- 救命胴衣を着用しての遊泳
- 救命胴衣非着用時の着衣遊泳
- 救命胴衣着用による救命筏への乗り込み
- 救命筏内の初期行動
- シーアンカーの取り扱い
- 救命艇及び救命筏の備品取扱い
- 無線設備を含む位置を知らせる装置の操作
訓練の様子(動画)
2消火訓練
STCW条約コードA-6-1-2(1〜10)に定められている訓練です。
訓練内容
- 各種持ち運び式消化器の使用
- 自蔵式呼吸具の使用
- 小規模火災の消火
- 噴射及び噴射ノズルを用いた大規模火災の水消火
- 泡、粉末又は他の適切な化学薬剤による消火
- 高膨張泡が入った区域への命綱を用いた侵入
- 煙の充満した閉鎖区域における自蔵式呼吸具を装着しての消火
- 炎及び煙の充満した居住区又は模擬機関室内における消火
- 霧放射器及び噴射ノズルによる油火災の消火
- 煙の充満した居住区において自蔵式呼吸具を使用しての救助
訓練の様子(動画)
3応急訓練
訓練内容
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人体構造及び機能の認識
A 骨格、B 筋肉、C 神経系、D 感覚器と皮膚、E 血液循環器、F 呼吸器、G 消化器、H 泌尿器
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応急手当
A 優先順位、B 応急手当の原則、C 一次救命処置、D 止血、E 溺者に対する処置、F 骨折に対する処置、G 火傷に対する処置、H ショックに対する処置、
テキスト
日本海洋資格センターのホームページにて無償で提供されております。
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初歩的な応急手当に係る基本訓練(応急訓練)
4安全社会訓練
訓練内容
- 非常配置表の掲示と応急部署
(1)非常時の手順の遵守ができること
(2)安全な作業の実施を遵守出来ること - 海運が海洋環境に与える影響および運行上の理由
または予期せずに起きうる汚染が海洋環境に対して
及ぼす結果に関する基礎知識 - 船内での効果的なコミュニケーション
(1)船内での効果的なコミュニケーション
(2)船内の良好な人間関係に貢献すること - 疲労防止を理解し必要な措置をとること
テキスト
日本海洋資格センターのホームページにて無償で提供されております。
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個々の安全及び社会的責任に係る基本訓練(安全社会訓練)
STCW基本訓練の費用は?
日本海洋資格センターが実施するSTCW基本訓練(実地訓練)の費用は
- 生存訓練:55,000円(税込)
- 消火訓練:66,000円(税込)
です。
※英文の修了証明書の発行にはそれぞれ1,100円(税込)が必要となります。
STCW基本訓練の期限は?
生存訓練と消火訓練の期限は5年間です。
5年に一度の受講が必須となっています。
なお、応急訓練と安全社会訓練は、一度受講すれば問題ありません。(有効期間なし)
STCW条約の資格は?
STCW基本訓練を受講すると、以下の修了証が発給されます。
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1基本訓練修了証
生存訓練、消火訓練、応急訓練及び安全社会訓練を受けると発給
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2技能証明書
生存訓練及び消火訓練を受けると発給
有効期限が5年間
STCW基本訓練はいつから?
2017年1月1日から、陸上での実地訓練と5年ごとの能力維持の証明が義務化されました。
STCW条約の正式名称は?
STCWの正式名称は「International Convention on Standards of Training, Certification and Watchkeeping for Seafarers」で日本語では「船員の訓練 及び資格証明並びに当直の基準に関する国際条約」です。
1967年3月ドーバー海峡で発生した「トリーキャオニン座礁事故」による大規模な原油流出と、それが引き起こした深刻な海洋汚染を受けて、1978年7月7日に72カ国の参加により採択されました。
策定から随時改定によって内容が見直されており、「STCW基本訓練」は、2010年のマニラ改正によって定められ、5年に渡る議論を経て、2017年から基本訓練の受講が義務化されました。
なお、STCW条約の内容、原文は下記のリンク先からご覧いただけます。